〚 祭事と儀礼 〛
生命は尊く、大切にしなければならない。人々は授かった命に活力を与え充実した人生を送りたいと願う。 その願いを叶えるために編み出されたのが、人生の節目ごとに行なわれる数々の祭事や儀礼である。 人の一生にはいくつかの峠があり、その峠を越えていかなければ次の人生へと続いていかない。 しかし、 その峠を越えていくには多くの危険や困難が待ち受けている。 人々は神の加護によってその危険や困難を 無事乗り切ろうと祈り、峠を無事通過すれば、また新しい世界が開けていくのである。 儀礼は、人生儀礼、 通過儀礼とも称され地方によっては年祝いともよぶ。 祭事や儀礼は人が誕生する前から始まっている。 その第一歩として、先ず「帯祝い」がある。着帯祝いとも言うが、これは丈夫な赤ちゃんを無事出産できます ようにとの願いからの風習であり、妊娠五ヶ月目の最初の戌の日に行なわれる。 戌の日を選ぶ理由として、 犬は安産多産でお産が軽い習性から、それにあやかりたいとの願いからであり、岩田帯とよばれる服帯を 妊婦に巻く平安時代からの儀式である。 赤ちゃんが無事誕生すると出産を祝うさまざまな祭事や儀礼が 行なわれる。 誕生して七日目に「お七夜」(命名式)、その後は、地方によっても異なるが、赤ちゃんも しっかりしてくる生後三十日前後(男子三十一日、女子三十二日ともいわれる)に、「お宮参り」(初宮参り)を して、無事の誕生に感謝し将来の健康と幸福を産土神に祈願するもので、全国的に見られる人生儀礼の一つ である。 次は「お喰い初め」(箸はじめ、箸ぞろえ)である。この儀礼は百日(ももか)とも歯固めとも言われ 生後百日目に行なわれる地方が多い。生涯食べ物に困らず健康を保ち長寿を全うしますようにとの祝膳の 儀礼である。 また、初めて迎える節句を「初節句」といって、女子は三月三日の「ひな祭り」、男子は五月 五日の「端午の祭り」として祝っている。 次に「七五三参り」、単に七五三とも言うが、男子は五歳(地方に よっては三歳と五歳)、女子は三歳と七歳の年の十一月十五日に神社などへお参りして、それまでの、 すこやかな成長のお礼と将来の健康を祈願するのである。 年齢は本来数え年であるが、現在は満年齢で 行なわれる場合が多い。 また、入園、入学、卒業に際しすこやかな成長と学業成就を祈ってお祝いをする。 さらに「成人式」は、地方によってもさまざまであるが二十歳になって親の保護から独立し立派な大人になった と認められる日としてお祝いをするのである。 そして「結婚式」を祝い、子供が生まれたなら、また、その 子供の成長のお祝いが繰り返されるのである。 また、「厄年」という、特に慎まねばならぬとされる悪い年回り があり、男性は数えで二十五、、四十二、六十一歳、女性は十九、三十三、三十七歳で、この内、男性四十二、女性三十三歳を大厄といって凶事や災難に遭う率が非常に高くなる年なので特に恐れられ神社などで災厄を 祓い除くため「厄除け参り」(厄祓い、厄落とし)などのご祈願をするである。 他に長寿の祝いとして「還暦の 祝い」がある。 中国の暦法で満六十歳で生まれた年の干支に還るところから還暦と言ったが、今では、 六十歳は長寿というよりは、まだ現役で働き盛りといった人が多く、その祝いは控えめのようである。より長寿になれば満七十歳で「古稀の祝い」(中国の詩人、杜甫の〝人生七十古来稀なり〟から由来)。満七十七歳で 「喜寿の祝い」(喜の字を略した草書体で七十七と読めるところから由来)。満八十歳で「傘寿の祝い」(傘の 略字から由来)。満八十八歳で「米寿の祝い」(米の字が八十八となることに由来)。満九十歳で「卒寿の祝い」(卒の略字〝卆〟から由来)。満九十九歳で「白寿の祝い」(百という字から上の一を取ると白になることから 由来)。などと長寿の祝いも盛んに行なわれている。 また、一生の内で、家の新築、建売住宅やマンションの 購入などという大きな節目に出会うこともある。そこで行なわれる祭事として、建て替えに伴って「解体祓い」 「井戸祓い」「稲荷社の御魂抜き」「神棚祓い」などを経て「地鎮祭」「上棟祭」「竣工祭」などが行なわれ、そして「入居清祓い」(新宅祭)と続き、神の加護によって、この重要な節目を無事乗り越えようとする。人生における 祭事や儀礼はいずれも日本人の古くからの生活体験から生みだされたものであり、、未来に継承していか なくてはならないのである。